教授と言ってもいいんだけれど、なんだか同じキャラを言うのも癪なので他のキャラを考えてみる。
だが丸っきり思いつかなかった。
ここはもういっそギャグに走ってしまうというのはどうだろうか。
「俺は……きのこが好きだなあ」
そんなわけで俺は存在するはずのないキャラクター、というかキャラクターですらないものを言ってみた。
「うわ、志貴。ちゃんときのこの事知ってるんだ」
「意外ですね……あれは注意してみていないと気付かないキャラなのに」
「おるんかいっ!」
思わず関西弁で突っ込みを入れてしまう俺であった。
「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その14
「おるんかいって……何言ってるのよ志貴。自分できのこって言ったくせに」
「あ、いや、そうなんだけどさ、うん」
まさか適当にいったモノが実在しているとは思わなかったのだ。
一体どういうキャラなんだろう。
「どうも怪しいわね」
疑いの眼差しを向けてくるアルクェイド。
「ば、ばかなこと言うなよ。知ってるに決まってるじゃないか」
人はどうしてこういうときに見栄を張りたくなってしまうものなんだろう。
余計に状況は悪くなるばかりだというのに。
「じゃあ志貴。きのこがどんなキャラか説明できるの?」
「う」
ほら、墓穴にはまった。
「……だから、その……きのこは……きのこだろ」
「名前はいいのよ。特徴とかは?」
「えっと……だから……それはつまり……」
目線を泳がせる俺。
「……」
するとシエル先輩と目が合った。
先輩はふっと笑顔を浮かべる。
「遠野君遠野君。確かきのこというのはその名の通り、茸に手足が生えたようなキャラクターじゃありませんでしたっけ」
「え?」
「そうでしたよね、確か」
それからぱちりとウインクをする。
なるほど、そういうことか。
「あ、ああ。うん。きのこは名前の通り茸に手足が生えたキャラだったな」
先輩の言葉をそのまま繰り返す。
「ふーん。色は何色?」
「え、ええと……確か……だなぁ」
「傘が緑に黄色いまだら模様、体のほうも黄色でしたよね?」
「そ、そう。傘が緑に黄色いまだら模様があって、体も黄色なんだ」
「それで知得留先生たちとは滅多に関わりはないんですが、毎回必ず番組のどこかで出てくるキャラクターなんですよね」
「その通り。ばけねこたちとは絡みは無いけど、毎回どっかにいるやつなんだよ」
最後のセリフは微妙にアレンジを加えてみた。
「ふーん。なんだ。志貴ちゃんと知ってるじゃない」
アルクェイドはにっこりと笑っていた。
「はは……」
軽く頭を下げて先輩に感謝を示す。
つまり先輩の細かい配慮というのはこういうことなのだ。
人が困っているのを見ると助け舟を出してくれる。
電車でおばあさんを見かけたら即座に席を譲ってあげるに違いない。
「いえいえ。さすが遠野君ですね。よくご存知のようです」
「ほんとよ。ちょっとびっくりしたわ」
「ま、まあな」
実際にほとんど説明したのはシエル先輩だった。
だがシエル先輩の言葉を俺が繰り返した事で、アルクェイドの頭には「俺が説明した」ことのほうが印象づけられたのだ。
繰り返しの場合二度目のほうが記憶に残ることを利用した心理的トリックである。
「昨日のガクガク動物ランドではきのこはどこにいましたっけ。わたしちょっと見つけられなかったんですが」
「ふっふっふ。甘いわねシエル。砂浜でビーチバレーをしていた時に砂山に埋もれてたのよ」
「そ、そんなところにいたんですか」
先輩とアルクェイドはそのきのこの話題で盛りあがっていた。
なるほど、きのこというのは要するに毎回どこにいるかを探すようなキャラクターなのか。
「なんかウォーリアを探せみたいだな」
「何それ?」
興味深そうな顔をしているアルクェイド。
「うん。本なんだけどさ。見開きのページのどこかにウォーリアってキャラがいるんだ。それを探す本なんだよ」
「あー。昔流行りましたね」
先輩は懐かしそうな顔をしていた。
「だよな。俺は有彦と学校で昼休みの間中探して見つからなかったことがある」
「あれは集中力とかを高めるのに役立ちましたね。形状記憶にも」
「そんな難しい事考えてなかったけどなー」
っていうか教会で流行ってたんだろうか、あれ。
「ふーん。面白そうねそれ。今見れないかな?」
「どうだろうな……」
有間の家にまだ残っているかいないか微妙なところである。
「ありますよ」
「うわ、マジで?」
「ええ。居間にありますんで……移動しますか」
「あ、ああ。うん」
そういえばまだ寝室にいたままだったっけ。
「うん。いこいこっ」
アルクェイドはさっさと居間の方へ飛んでいってしまった。
「こら、アルクェイド……」
俺も慌てて後を追う。
「セブン。後片付けをお願いしますよ」
なんだか後ろからななこさんの悲鳴が聞こえたような気がした。
「えーと……確かここに……」
先輩はやたらと難しそうな本ばかりある本棚を探している。
「シエル、まだー?」
「もう少し待ってください……っとあった」
懐かしい装丁の本が取り出されてきた。
「うわ。これだよこれ。懐かしいな」
家にあった本は何度も読みなおしたのでボロボロになっていたものだが、先輩の持っているその本は綺麗なものであった。
「へえー。こういう本なんだー」
表紙をめくる。
主人公のウォーリアが自己紹介をしている絵だ。
「やあ、僕は世界中を旅しているウォーリアだ。君は僕の行く先々の姿を見つける事が出来るかな?」とある。
「っていうか日本語なんだ」
「ええ。こちらに来てから買い直したものなので」
「なるほど」
表紙が綺麗な理由にそれもあるかもしれない。
まあ俺なんかだと買って数ヶ月の本でもボロボロにしちゃうことがあるんだけど。
「ふふん。きのこだってすぐに見つけられるわたしよ。こんなのわけないわ」
アルクェイドは自信満々の顔をしていた。
「どうですかね。意外と難しいものなんですよ」
先輩はにこりと笑っている。
「よーし。探すわよ〜」
いきなり真ん中あたりのページを開くアルクェイド。
「こらこら。最初からやってけよ」
「えー? だってこういうのって最初は簡単なんでしょ? それじゃ張り合いないわ」
「そりゃまあそうだけど……」
「構いませんよ。アルクェイドの好きなようにさせてみましょう」
「見てなさいよ。えーと……あれ?」
早速とばかりにウォーリアを探し始めたアルクェイドだがすぐに動きが止まってしまった。
「どうしたんだ?」
「ねえ、志貴。いくらなんでもこれ簡単すぎない?」
アルクェイドが一部分を指差す。
「……あー」
そういえば俺もやったなあ。
「ど、どうしました……ってああっ?」
先輩もその場所を見て全てを理解したようだ。
「こんな赤い丸で囲われてたら、すぐわかっちゃうわよねー」
そう、ウォーリアのいる場所が大きな赤丸で囲われていたのである。
続く