「見てなさいよ。えーと……あれ?」

早速とばかりにウォーリアを探し始めたアルクェイドだがすぐに動きが止まってしまった。

「どうしたんだ?」
「ねえ、志貴。いくらなんでもこれ簡単すぎない?」

アルクェイドが一部分を指差す。

「……あー」

そういえば俺もやったなあ。

「ど、どうしました……ってああっ?」

先輩もその場所を見て全てを理解したようだ。

「こんな赤い丸で囲われてたら、すぐわかっちゃうわよねー」
 

そう、ウォーリアのいる場所が大きな赤丸で囲われていたのである。
 
 






「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その15









「ちょ、ちょっと待ってください。な、なんでこんなものが……」

シエル先輩が赤丸を指でこする。

どうやらその赤丸は先輩には覚えがないものらしい。

「……まさか……セブン!」
「わっ、わわわっ!」
「うわっ」

いきなり俺の目の前にななこさんが現れた。

「ま、マスター。そんな強制召喚なんかしなくても、呼べば飛んできますよー」
「それじゃあ遠野君に見えないでしょう。わたしが変な人みたいです」

どうやらその強制召喚とやらだと俺にでも見えるようになるらしい。

「どれどれ……」

今度はさしあたりのない腕辺りを触ろうとしたのだが、俺の手はすかすかと空を切るばかりだった。

「す、すげえ。ほんとに聖霊なんだ」
「志貴、バカ?」

アルクェイドが呆れた顔をしていた。

「う、うるさいな。さっきまでのじゃ実感なかったんだよ」
「遠野君。今そんなことをしている場合ではありません。なんですかこれはセブン。あなたがラクガキしたんですか?」
「ラ、ラクガキ? そ、そんな大それた真似はわたし決して……」

ななこさんはぶんぶんと首を振った。

「じゃあこの赤丸は誰が書いたと言うんです?」
「ああっ! そ、それはあり……ごほっげほっ」

赤丸を見て大げさに急き込むななこさん。

俺は最初のふた文字だけで全てが理解できた。

つまりななこさんは有彦の家にこの本を持っていった事があり、有彦にラクガキをされてしまったんだろう。

「アリ? アリーヴェデルチしたいんですか?」
「さ、さよならは嫌ですよーっ!」

なんだかななこさんが機関銃あたりでボロボロにされそうである。

「ん? この赤丸はセブンが書いたやつなの?」
「だ、だからそれはええとつまり……はい、そうですごめんなさい」

ななこさんは地べたにひれ伏していた。

うーむ、ななこさんも有彦なんか庇わなくたっていいだろうに。

それとも先輩にそれを知られちゃまずいのかな。

「ま、まあまあ。過ぎたことは仕方ないじゃないか。他のラクガキされてない本を探そうよ」

そんなわけで俺はななこさんをフォローする事にした。

「遠野君がそう言うなら……」

先輩も折れてくれたようである。

「ええと……どれなら大丈夫ですかね」

そうして再び本棚を探し出す。

「なるだけ難しいやつにしてよね。張り合い無くなっちゃうもん」
「ほほう。言いましたねアルクェイド」

先輩のメガネがキラリと光った。

「ならばこの本に挑戦してみてください」

そうして見覚えのある表紙の本を取り出す。

「そ、それは……伝説の第四部」

ウォーリアシリーズ第四部、ウォーリアの奇妙な冒険である。

ウォーリアが魔法の力によって奇妙な世界へと旅立っていくストーリーなのだ。

「知っていますか遠野君」
「先輩。いくらなんでもそれはきついんじゃないか? 難易度がウォーリア史上最高と言われている本だぜ?」

昔の俺では丸っきり発見する事が出来ずに挫折した覚えがある曰くつきの本であった。

「いいのよ志貴。それくらいじゃないと張り合いがないわ」

いつものことながらアルクェイドは根拠のない自信に満ちている。

「じゃあ……俺も一緒に探してやるよ」

俺もその表紙を見て昔の情熱が蘇ってきた。

昔は駄目だったが今の俺なら見つけられるのではないだろうか。

「ほほう。それは面白いですね。ならばこうしましょう。セブン?」
「は、はいっ?」

名前を呼ばれてびくつくななこさん。

「あなたも一緒にウォーリアを探しなさい。一番早く、一番多くウォーリアを見つけた人が勝者ということにしましょう」
「しょ、勝者ですか。何かご褒美があるんですか?」
「ええ。もちろん豪華賞品を用意しましょう。あなたならニンジンですかね」

にんじんは豪華賞品ではないと思うのだが。

「うわっ。それなら俄然やる気出ますよっ? なんとしてでも見つけちゃいますっ」

ななこさんはやる気になったようで、えいえいおーと腕を伸ばしていた。

「もちろん遠野君たちにも用意しますから頑張って下さいね」
「あ、うん」

豪華賞品と聞くと現金なもので、やる気も増してくる。

しかし賞品と聞くと何か引っ掛かるような。

なんだっけ。

「志貴。一緒に探そうね」
「ん? ああ、わかった」

とりあえず考えるのを止めて俺はアルクェイドの隣に座った。

「先輩はどうするの?」
「わたしは全部覚えちゃってますから。審判ってことでひとつ」
「了解」

さすがはシエル先輩というかなんというか。

「ではアルクェイド。早速1ページ目を開いてください」
「わかったわ」

アルクェイドがページをめくる。

「うわ……懐かしいな」

見開きページにひしめき合う人、人、人。

この何百人もいる中から立った一人のウォーリアを見つけ出すのがこの本の目的なのだ。

「どこにいますかねー。うーん」

目を細めているななこさん。

「あ、これこれ。これじゃない?」

早速とばかりにアルクェイドがページの真ん中を指差した。

「それは違うだろ。服の色が青いじゃないか」
「えー? こんなにそっくりなのに」
「そっくりじゃ駄目なんだよ。同じ格好じゃなきゃ」

この奇妙な冒険シリーズが難しいと言われている理由の一つに、ウォーリアと似た格好の人物が非常に多く紛れている事がある。

俺も何度も間違えて苦渋を舐めたもんだ。

「ちぇー。じゃあ他に探すわよ」

アルクェイドは本をきょろきょろ眺め出した。

はっきり言ってアルクェイドのその方法では見つかる可能性は低い。

時間はかかっても、上からじっくり眺めていく方法が確実である。

「よし……」

そんなわけで俺は左端からゆっくりとページを見ていった。

「あ、これではないでしょうか」

ななこさんがページの右のほうを指す。

「……どれ?」

なんせななこさんの手は蹄なのでどこを指しているのかさっぱりわからなかった。

「こ、ここですよ。この太ったおじさんの上の……」
「ああ。それも別人。メガネかけてないから」
「メ、メガネをかけてなかったら別人ですか? それは差別ですよー」
「いや……それはこの本の中の話であって」
「わたしは遠野君がメガネをかけてたほうが燃えますね」
「あらシエル。志貴はメガネ外したほうが凄いのよ」

二人はわけのわからない会話をしていた。

「遠野君はわたしのメガネはどうですか?」
「え? いや、別に、つけててもつけてなくても先輩は先輩だと思うけど」
「そ、そうですか」
「残念だったわね。メガネがアドバンテージにならなくって」
「うるさいですよアルクェイド」

ああ、二人は何を言っているんだろう。

「そんなことはいいからさっさとウォーリア探そうよ」
「重要なことなんだけどねー。こういうの」
「遠野君はメガネありのほうが絶対いいですよ……」

先輩はまだこだわっているようだったがとにかく俺はウォーリアを探すことにした。

えーと、次は右上のほうか。

「ねえ志貴。これは?」
「ん。それは全然違うだろ。あからさまに太ってるじゃないか」
「きっと急に太ったのよ」
「あのなあ……」

子供みたいな言い分である。

「志貴さん。これはどうでしょう?」
「そいつは帽子を被ってないよ。ズボンも違うし」
「うう、難しいです……」

ななこさんも苦戦しているようだった。

「だいたい、ウォーリアってどんな顔してたっけ?」
「……おいおい」

それじゃあどう頑張ったって見つけられるわけがない。

「だからだな……」

俺はざっと右のほうを見渡した。

「ああ、これ。こんなんだよ」

そしてウォーリアそのものを見つけたのでそこを指差した。

「へえ。なるほど。こういう人を探せばいいのね。よーし」

気合を入れてまたウォーリア探しを再開するアルクェイド。

「そうだ。こういう奴を探せばいいんだよ」

俺はやっとアルクェイドが理解してくれた事に安堵した。

「じゃあ俺も探すからさ」

そうしてまたページを吟味する。

「……っていうかもう見つかっちゃってるじゃないですか、遠野君」

先輩が呆れた顔をしていた。

「え? あ、そ、そうか」

見つけたんだからもう他にウォーリアがいるはずがないのである。

「え? それが正解なの? 他にいないの?」
「このページにはもういませんね。次のページにはいますけれど」
「むー。次は絶対わたしが見つけるんだから。志貴は邪魔しないでね」

アルクェイドは俺に非難の目を向けていた。

なんだか俺が見つけちゃいけなかったみたいである。
 

「一緒に探そうって言ってたのになあ……」
 

俺はアルクェイドの気まぐれにただただ苦笑するのであった。
 

続く



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