「……っていうかもう見つかっちゃってるじゃないですか、遠野君」

先輩が呆れた顔をしていた。

「え? あ、そ、そうか」

見つけたんだからもう他にウォーリアがいるはずがないのである。

「え? それが正解なの? 他にいないの?」
「このページにはもういませんね。次のページにはいますけれど」
「むー。次は絶対わたしが見つけるんだから。志貴は邪魔しないでね」

アルクェイドは俺に非難の目を向けていた。

なんだか俺が見つけちゃいけなかったみたいである。
 

「一緒に探そうって言ってたのになあ……」
 

俺はアルクェイドの気まぐれにただただ苦笑するのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その16








「じゃあ、次のページに行くわよ」

アルクェイドがやや強めにページをめくる。

「こらこらアルクェイド。本はもう少し丁寧に扱ってくださいね」

先輩は苦笑していた。

「……」

アルクェイドは既に本に集中していて先輩の言葉は聞こえていないようである。

「じゃあ、いっちょ探すかなあ」

だが俺がそう言った途端に顔を上げる。

「志貴はさっき見つけたんだからいいでしょ。休憩しててよ」
「い、いや、そういうゲームじゃないんだけど」
「いいからいいから」

アルクェイドにおでこを押され、俺は仕方なく本から離れた。

「志貴さんは油断出来ないですからねー。ぼーっとしているようでやることはしっかりやってるんですから」

ななこさんまで俺を警戒するようなことを言っている。

「まあ、遠野君は他のウォーリアシリーズもやったことがあるわけですし、ハンデってことでいいじゃないですか」
「いや、だからさっきのは偶然だったんだってば」

俺は苦笑した。

「またまた謙遜しちゃって」

ぽんと俺の肩を叩く先輩。

「……」

どうも俺の周りの人間は俺の事を過大評価し過ぎだと思う。

そりゃあ直死の魔眼は自分でもとんでもない能力だと思っているけど、それ以外はよくて普通、もしくは標準以下なのだから。

ただアルクェイドには絶倫超人なる喜んでいいやら悪いやらの称号を貰ってるけど、それもまあ例外って事で。

「まあ好きにしてくれよ」

別にただの遊びなんだからそんなにムキにならなくたっていいだろう。

みんなで楽しく遊べればそれでいいのだ。

「……んーと、ええとー」

ななこさんはうんうんうなりながらも楽しそうな表情をしている。

「……」

だがアルクェイドのほうはややムキになりすぎているようだった。

じーっと一箇所を眺めつづけているのだが、俺が見る限りそこにウォーリアの姿はない。

「アルクェイド。もうちょっと肩の力を抜けよ」

俺はぽんとアルクェイドの肩を叩いた。

「だ、だって。全然見つからないんだもん……」

一変して泣きそうな顔に変わるアルクェイド。

「だあ、落ちつけ。あせると余計に見つからなくなるんだよ。深呼吸、深呼吸だ」
「し、深呼吸……」

すーはー、すーはー。

「どうだ?」
「う、うん。なんとかいけそうかも」

ちょっとは落ちついたようだ。

「じゃあ、頑張れよ」
「うん」

今度はだいぶ余裕の戻った表情で本を眺めるアルクェイド。

うん、やっぱりアルクェイドはこうでなくちゃなあ。

「セブンっ。何をしてるんですっ。早く見つけなさいっ!」
「うわっ、は、はいっ」

なんだかわからないけど先輩のほうが苛立ってしまっていた。

「せせ、先輩。まあまあ落ちついて」
「遠野君。アルクェイドばかりに肩入れしてはずるいですよ。わたしにも何かしてください」
「え? ななこさんにじゃなくて?」
「あ、いや、その、わ、わたしたちのほうにです」

なんだかどぎまぎしているシエル先輩。

「何かと言っても……先輩は全部答え知ってるわけだしさ。先輩がヒントとか出せばいいんじゃないかな」
「ヒント……ですか」
「あ。シエル。ヒント出すなら知得留先生風にしてね」

顔を上げずにアルクェイドがそんなことを言った。

「ふむ」

顎に手を当てる先輩。

「ではちょっと気分を改めまして……」

そう言って髪をくしゃくしゃにする。

知得留先生の髪型もこんな感じにくしゃくしゃなのだ。

「はい。では今日の授業のポイントです。ウォーリアは基本的にページの境目付近にはいません。それぞれの端からやや離れたところあたりにいることが多いでしょう」
「ふーん。なるほど……」

それを聞いて早速端周りを調べ出すアルクェイド。

「ちなみにガクガク動物の最後に来週のきのこ出現ポイントを予測する『教えて! 知得留先生』というコーナーがあるんですよ」
「へえ。そうなんだ」

実は最後まで番組を見ていたことないんだよなあ。俺。

「……って。う、うん。それくらい知ってるさ。ははは」

それがアルクェイドにばれたらまた面倒なことになりそうなので慌ててそう付け加えた。

「ふふ。遠野君も大変ですねえ」

全てを見通しているだろう先輩は余裕のある笑みを浮かべていた。

「あはは……」

俺も苦笑して返す。

「あっ。これこれ。これじゃない?」

と、右端の辺りを指差すアルクェイド。

「ん? どれどれ……」
「い、いましたかっ?」

ななこさんも顔を覗かせてくる。

すかっ。

「うおっ……うわわっ!」

ななこさんの頭が俺の頭を貫通した。

慌てて飛びのく俺。

「あ、今は大丈夫ですよー。ただの可視状態なんで、透けちゃいますから」

そう言って俺に手を伸ばすが、確かにななこさんの手は俺の体を透けていた。

「へ、へえ。ほんとに透けるんだ……」

なんていうか凄く不思議な光景である。

「当たり前でしょ。聖霊なんだから。そんなことよりウォーリアよ」
「はいはい」

俺としてはもうちょっとななこさんの透け具合を確かめてみたいのだが。

アルクェイドの指差しているところを見る。

「お。それだ」

服装、背丈、どれをとってもウォーリアそのものだった。

「ほんと? これで合ってる?」
「ええ。正解ですね」

シエル先輩も確認したがそれで間違いないようだ。

「わーいっ。やったぁっ」

それを聞いたアルクェイドは満面の笑みを浮かべて俺に抱き着いてきた。

「こ、こらこらっ……」

と言いながらもまんざらでもなかったりする俺。

うーん、透けるのもいいけどやっぱり柔らかいほうがいいなあ、なんて。
 

「遠野君っ! なにでれでれしてるんですかっ。次行きますよ次っ!」
 

けれど俺たちはシエル先輩によってあっさり引き剥がされてしまうのであった。
 

続く



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