シエル先輩も確認したがそれで間違いないようだ。
「わーいっ。やったぁっ」
それを聞いたアルクェイドは満面の笑みを浮かべて俺に抱き着いてきた。
「こ、こらこらっ……」
と言いながらもまんざらでもなかったりする俺。
うーん、透けるのもいいけどやっぱり柔らかいほうがいいなあ、なんて。
「遠野君っ! なにでれでれしてるんですかっ。次行きますよ次っ!」
けれど俺たちはシエル先輩によってあっさり引き剥がされてしまうのであった。
「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その17
「ふふーん。シエルったら妬いてるんだ」
にやにやしながらそんな事を言うアルクェイド。
「焼……なんだって?」
「ち、違いますよ。遠野君が困っていたからです」
俺よりも先輩のほうが困っているようだった。
「ま、まあ、うん。アルクェイド、急に抱き付いてくるのは止めてくれ」
「ちぇー。つまんないの」
アルクェイドはむくれている。
「うう、やっぱり生身のほうがいいみたいですね……」
ななこさんもなんだかよくわからないが拗ねていた。
「まあ、うん、次ね」
何か言われる前に次のページへとめくる。
「あ、あれ?」
次のページはいやにシンプルなものであった。
人物も建物もほんの少ししか描かれていない。
いないのだが。
「こ、これ……全員ウォーリアじゃない?」
「い、いや違う。こいつは帽子を被ってないし、こっちはズボンが違うし……」
なんとそのページの人物全員がウォーリアと似た格好をしていているようだった。
「ウォーリアファン倶楽部の集い、ですね」
「う、ウォーリアファン倶楽部の集い……」
「はい。設定ではウォーリアのファンたちが集い、パーティをしている中になんと本物が紛れ込んでいた、というものだったと思います」
「あ。ほんとだ。ここに書いてあるわね」
ページの左上のほうにウォーリア自身がそれを説明している絵と文がある。
「なんつー……うわ……マジかよ」
なんていうか見ているだけで頭が痛くなってくるようなページだった。
「これは……さすがにちょっと……」
アルクェイドのほうも顔をしかめている。
「うわー。凄いですねえ、これ」
ただ、ななこさんだけは大して動じていないようだった。
「セブン。ここはひとつあなたの能力を使ってみてはどうですか?」
「え? いいんですか? あれ使っちゃったらかなりずるいと思うんですけど」
「ん? ……ちょっとシエル。索敵能力使わせる気?」
「はい。あれを使えばどんなものでも一発で見つけられますからね」
「そんなのずるいわよ。インチキ」
ぶーぶー文句を言うアルクェイド。
「索敵能力か……なんかロボットみたいだな」
まあななこさんの本体は兵器だからそういう能力もあるんだろう。
「ちょっと見てみたいな。ななこさん、やってみてくれる?」
この中からウォーリアを探すなんてのは俺には無理そうだし、ここはななこさんに頼ってみよう。
「志貴、それじゃあセブンが見つけた事になっちゃうわよ?」
「いいじゃないか。みんな一回ずつでちょうどいい」
「……まあ志貴がいいって言うならいいけど」
それでアルクェイドも一応引き下がってくれた。
「そんなわけで、ななこさんどうぞ」
「あ、え、はい。そんなに期待しないで下さいね……」
ななこさんは本の両端を手で抑え、じっと眺め始めた。
「データ転送……検索中……10……20……45……」
おお、なんだかほんとにロボットっぽいぞ。
「セブン。バカなこと言ってないでさっさとやりなさい」
ところが先輩は呆れた様子だった。
「あ、あれ? まだやってないの?」
「はい。索敵は一瞬で終わっちゃいますし。そもそもセブンには街全域を探せるような索敵能力があるんですから」
「うわ。またわたしを改造しましたね? マスター」
非難の目で先輩を見るななこさん。
「え? いや、それはまあ、あはは……」
「うう、わたしの改造を趣味にするのだけは止めてくださいよー」
さすがはシエル先輩、趣味が実益に直結している。
まあ、ななこさんにとっては冗談じゃないって感じなんだろうが。
「シエル、恋人出来ないからって趣味にはまりすぎるのも良くないと思うわよ」
アルクェイドが先輩にそんなことを言った。
「黙りなさいっ、このあーぱー吸血鬼っ!」
「ま、まあまあまあまあ」
しかし先輩のその「あーぱー吸血鬼」って言い方も久々に聞いたなあ。
「あー、その、それで索敵終わったんですが」
そしてななこさんが困ったような顔をしている。
「え? もう」
しまった、肝心なところを見れなかったじゃないか。
「どれどれ? どこにいるの?」
「はい。ここです」
ななこさんはページの中央からやや左を指した。
「えーと……帽子もある、服も合ってる……靴も……間違いない。本物だ」
確かにそれはウォーリアである。
「はい。そりゃあマスターの作った索敵能力ですから、間違ったものを見つけるわけがありません」
やや自虐的な笑みを浮かべるななこさん。
「じゃあじゃあ次のページもやってみてよ」
「あ、はい」
アルクェイドがページをめくる。
「えと、ここです」
ななこさんは一秒も見ないうちにウォーリアを発見してしまった。
「じゃあ、こっちは?」
「んーと、ここです」
「……セブン。あなた最初から答え知ってたんじゃないでしょうね」
疑惑の瞳を向けるアルクェイド。
「ち、違いますよ。索敵のせいですぐにターゲットを補足してしまうんです」
「うーん……」
そうは言っているものの、ななこさんは見た目的には何も変わってないし、なにより地味なので実感が沸かなかった。
「もっとなんか派手な動きとかないのかな?」
「それはまあ攻撃だったら派手になりますけど……情報収集は地味になっちゃいますよ」
「そ、それもそうか」
情報収集なんかは相手に気付かれないように地味であるほうがいいんだろう。
「ちなみにマスターはこの能力を無駄に使っています」
「こ、こら、セブンっ」
先輩はややあせった様子を見せる。
「無駄にってどんな風に? 近所のスーパーでカレーが安いとか?」
「それもですが。例えばお隣さんの新聞をこっそりわたしに覗かせておいて番組欄をー」
「わ、わーっ! 何を言っているんですかセブンっ? わたしがそんなことをしているわけがないじゃないですかっ」
慌ててななこさんの口を塞ぐシエル先輩。
やはりシエル先輩だけはななこさんを触れるらしい。
「もがっ……もがもがもがっ」
ななこさんはもがいていた。
「……ぷはっ。ふ、ふふふ。わたしは真実を述べているだけですよ、マスター」
だがななこさんはすぐにシエル先輩から逃れ、怪しい笑みを浮かべている。
「あっはっはっは。シエル苦労してるのねー」
アルクェイドは大笑いしていた。
「くっ……」
顔を真っ赤にしている先輩。
「あ。番組といえば、そろそろ時間のようですね」
ななこさんはぱこんといい音を立てて手を合わせている。
「時間?」
「あっ。ほんとだっ。志貴っ、テレビテレビっ」
「え? ん、あ、おう」
俺がテレビに一番近い位置にいたので電源を入れた。
「チャンネルチャンネルっ」
「はーい」
ななこさんが画面を指すと途端にチャンネルが変わった。
「それも先輩の改造?」
「はい。不精なマスターのせいでこんな機能まで」
「……」
先輩はもう言葉もないといった感じである。
「ふふふ。わたしを改造ばっかりするからです。これぞななこの大逆襲ですね」
そんな先輩を見てくすくす笑っているななこさん。
しかし俺たちがいなくなったあと大丈夫なのかなあと心配だったりもする。
「志貴。何してるのよ。始まるわよ」
「え? あ、うん」
アルクェイドに呼ばれて隣に腰掛けた。
「何が始まるっていうんだよ」
「そんなの決まってるじゃない」
ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぽーん。
「みんな、集まれー」
ああ、これか。
俺は最初のフレーズだけでもう全てが理解できた。
よく考えたらアルクェイドが楽しみにしている番組なんてこれ以外にないじゃないか。
「教えて! 知得留先生! 〜ガクガク動物ランド〜 はっじまるよー!」
俺としては久々に見るガクガク動物ランドであった。
続く