途端にアルクェイドがばけねこみたいな声で画面を指差した。
「ああ、ほんとだ。きのこですね」
「……」
さて、こういう場合俺はどんな顔をしたらいいんだろう。
「ほらほら見つけたよ志貴。凄いでしょ」
にっこりと笑うアルクェイド。
「ああ、うん。……凄いな」
俺はなんとかそう答えることしか出来なかった。
「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その19
「ん? どうしたの志貴? なんか暗いよ?」
アルクェイドが不思議そうな顔をしている。
「あ、いや、なんでもないよ。さすがアルクェイドだなと思ってさ」
俺は出来るだけ明るい顔をしてそう答えた。
「えへへ。凄いでしょ」
それを見てまた笑顔に戻るアルクェイド。
「む? これが伝説の泉かニャ?」
俺たちがそんなやり取りをしている間にどうやら泉が見つかったようだった。
「あっ。見つかったのかな」
視線をテレビへと戻す。
「ふむ……この水の清さはどうやら間違いないようだな」
神妙な顔をしながらそんな事を言う教授。
というかすぐ傍に「でんせつのいずみ」とか書いてあったりするのだが。
「じゃあ、ここにおまんじゅうを入れて……」
さっそくとばかりにそこへまんじゅうを投げ込もうとするばけねこ。
「待ちなさいばけねこ。この泉を使うものは水のように心が清くなくてはいけないんですよ?」
「ならアチキで全く問題無いぞー。アチキはとても清い存在だからニャ」
「……」
「……」
「ニャ、にゃんだその沈黙はーっ!」
「いえいえ、そう思うのなら試してみればいいじゃないですか」
「その通りだ。清い存在なら問題は無いのだからな」
あさっての方向を見ている教授と知得留先生。
「ニャ、ニャー……」
たじろいでいるばけねこ。
「アルクェイドだったらどうする?」
俺はなんとなく尋ねてみた。
「邪魔しないでよ。今いいところなんだから」
怒られてしまった。
「……はは、は」
アルクェイドからそっと離れる俺。
「いいんだ。どうせ俺なんか……」
そしてちょっと拗ねたりしてみた。
「遠野君、あんまり気にしちゃ駄目ですよ」
先輩はそんな俺を見て苦笑していた。
「いや、でもさ、さっきもきのこ見つけられなかったし……なんか情けないなあって」
「アルクェイドはそんなこと気にしていませんよ。遠野君のほうがそういうのはわかるでしょう?」
「うーん……」
まあ確かにそうなんだけど。
大抵の場合、いいカッコをしようとして失敗したなんてのは本人だけしか気にしないものなのである。
しかも相手はアルクェイドなんだから尚更だ。
「まあ、うん。わかった。ありがとう」
「いえいえ」
さすがはシエル先輩ともいえる心遣いだった。
「わーい! アチキのまんじゅうが元に戻ったぞー」
「のこのこきのこ」
いつの間にやら番組ではまんじゅうが戻ったらしい。
「うむ。やはりエト君に任せて正解だったな」
「ですね。ばけねこじゃどうなっていたことやら」
今週もエト君は大活躍のようだ。
翡翠はさぞ喜んでいることだろう。
「皆はばけねこのように食べ物を悪くなるまで置いてはいかんぞ?」
「そうです。知得留先生との約束ですよ?」
ね、とポーズを取る知得留先生はなかなか様になっている。
「それじゃあみんな、まったねー」
そしてエンディングのBGMが流れ出した。
「はーっ。今日もすっごい面白かったね」
伸びをしながらそんなことを言うアルクェイド。
「んー。まあな」
モノを粗末にしてはいけないという考えと、雨の多い日の食品の管理方法のコラボレーションはなかなかためになった。
「子供番組だからってバカに出来ないんだなあ」
琥珀さんがはまった理由もわかるような気がする。
「わたしも最初はうがった目で見ていたんですけどね。しばらく見ていたら考えが変わりました」
「なるほど」
「早く次回のきのこ情報やらないかな〜」
けどまあ、アルクェイドのほうはそういうんじゃなくて子供と同じ理由で見ている気もした。
「教えて知得留先生は番組の最後ですよ、アルクェイド」
子供向け番組は大きく3つのパートに分けられている。
最初は着ぐるみたちが繰り広げるほのぼの劇場。
真ん中にお兄さんおねえさんの歌のコーナーその他諸々。
そして最後に体操とパレードだ。
昔はテレビを見ながら一緒に体操をしたし、パレードに参加している気分になったものである。
「悩み事なら〜すっきりばっちりおねーさんにお任せよ〜」
今はおねーさんが歌を歌っているが、昔聞いたがないような新しい音楽だった。
「昔の歌とかも歌われてるのかなぁ」
昔すごい好きな曲とかあったんだけど。
「どんなのです?」
「バナナのパパは〜とか」
「あ、それはこの前歌ってたわよ。バナナの子供はコバナナとかいうやつでしょ?」
「そうそう。それそれ。懐かしいな」
「へえ。遠野君はああいう曲を聞いて育ったわけなんですね」
「まあ、うん」
聞いただけで子供時代に戻ってしまうような、懐かしい曲たちである。
「すっごい変な曲とかもあったんだぜ。コンピューターおばあちゃんとか」
「な、なんですかそれ?」
「いや、文字通りコンピューターおばあちゃんの曲で……」
つい懐かしんで語ってしまう俺。
「へえー。面白そうねえ」
アルクェイドが興味津々な態度を見せてくれるのがやたら嬉しかった。
やはり自分の思い出や興味あるものに人が感心を持ってくれるのは嬉しい事だ。
だからこそ俺もアルクェイドが興味あるものについて知ろうと考えたわけだが。
「はーい。じゃあ今日もお兄さんと体操の時間だぞ〜」
ばけねこが子供たちの集まる広場に出てくると、ワーとかキャーとか歓声が挙がる。
「あ。体操のコーナーね。せっかくだからわたしもやろうかな」
すっと立ちあがるアルクェイド。
「志貴も一緒にやろうよ」
「ま、マジで?」
「うん。ほらほら」
手を引っ張られて起こされてしまった。
「さあ。まずは両手を伸ばしてー」
「伸ばしてー」
「……伸ばしてー」
滅茶苦茶恥ずかしいけどこれもアルクェイドのためだと一緒に手を上げる。
「ほらほら、シエルも一緒に」
「わ、わたしもですか?」
「そうよ。はい、足をぶらぶらーっと」
「……え、ええと」
やはり抵抗があるのか動きがぎこちない先輩。
「先輩、ここはひとつ覚悟を決めて」
「わ、わかりました。右、左、右っ」
今度はなめらかな動きである。
やると決めると先輩はノリがいいのだ。
「腕を振って足をあげてー」
「こ……これは写真にとっておかなきゃいけませんねー」
そんな先輩を見てななこさんは目を輝かせていた。
「だあ、やらなくていいからそんなことっ!」
「セブンっ! そんなことをしたらせっかんですよっ!」
「えー? いいじゃないの。みんなで撮ってもらおうよー」
「ふっ。シャッターチャンスゲットだぜ、ですっ!」
ぱしゃっ。
そんなわけでいい年をした三人が体操をやっている奇妙な光景をななこさんに撮られてしまうのであった。
続く