「こ……これは写真にとっておかなきゃいけませんねー」

そんな先輩を見てななこさんは目を輝かせていた。

「だあ、やらなくていいからそんなことっ!」
「セブンっ! そんなことをしたらせっかんですよっ!」
「えー? いいじゃないの。みんなで撮ってもらおうよー」
「ふっ。シャッターチャンスゲットだぜ、ですっ!」

ぱしゃっ。
 

そんなわけでいい年をした三人が体操をやっている奇妙な光景をななこさんに撮られてしまうのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その20








「セーブーンーっ」

ななこさんに向けて先輩がフリッカー気味の攻撃を放つ。

「わ、わっ」

たちまちななこさんの手から使い捨てカメラが取られた。

「こんなものはこの世から抹消してしまいます」

カメラに向けて手刀を構える先輩。

「……って! これ、この前重要資料を取ってきたやつじゃないですかっ!」
「ええっ? そんな大事なものをその辺に置いておかないでくださいよっ」

ななこさんの言い分は至極最もである。

「ねえななこさん、もしかして先輩って家じゃかなりだらしなかったりする?」

俺はそんな事を考えてしまった。

「え? あ、はい。そうですねー。まず朝起きたら……」
「セブンっ! これ以上余計な事をしたらトリプルビーフケーキですよっ」
「……わ、わたしは何も知りませんよー。マスターは女性らしくとってもおしとやかですしっ」
「あは、あはは……」

まあ敢えてこれ以上は聞かないでおこう。

「困りましたね。これじゃあ抹消できないじゃないですか」

先輩はカメラを見て溜息をついていた。

「いいじゃないの。現像しちゃえば。あ。出来れば焼き増ししてね」

アルクェイドは相変わらずお気楽である。

「……はぁ……わかりましたよ。後でやっておきます」
「ありがと、シエル」
「あ、じゃあ暗室用意しておきますか?」
「セブン。あなた変なところだけ気がきくんですね」

先輩は苦笑いをしていた。

「暗室って……先輩、自宅で現像するの?」
「というよりも一般に見せられないモノが結構映ってますからね」
「そ、そうなんだ」

それは見てみたいような絶対見たくないような。

「シエル、他のもの撮られて困るんだったらポラロイドでも使えばいいんじゃないの?」

するとそれを聞いたアルクェイドがそんなことを言った。

「それは出来ません」
「なんで?」
「あれは高いんです」
「……なるほど」

切実な理由だった。

「シエルも大変ねえ」
「はぁ。あなたに同情されるなんて余計悲しくなってきますよ」

なんだか最初の頃にもこんなやりとりがあった気がする。

「さてさて、教えて知得留先生のコーナです」
「ん?」

テレビを見ると着ぐるみではなくアニメになった知得留先生の姿が。

「あ。きのこ情報だ」

途端にアルクェイドはひょいとしゃがみこみ、画面に食いついた。

「ああ、例のコーナーか」

そういえば番組の最後にきのこの場所を予想するコーナーがあるって言ってたっけ。

「遠野君遠野君」
「ん?」

後ろを向くと先輩が手招きをしている。

「実はここだけの話、このコーナーを見ていればきのこの出現位置は絶対にわかっちゃうんですよ」
「え? そうなの?」
「まあ見ていればわかります」

そんなわけで画面を見る。

「おっす! ばけねこさんだぞ!」

こちらも知得留先生と同じくアニメになったばけねこ。

「さてさてばけねこ。今日の質問はなんですか?」
「質問はいつもと同じー。きのこの位置はどこかにゃー」
「はいはい。では知得留先生の大予想です。このセリフをよく覚えておいてくださいね」

黒板にさらさらと文字を書いていく知得留先生。

「つみをにくんでひとをにくまず」

罪を憎んで人を憎まずときましたか。

「このセリフを誰かが言った時、きのこが出現する可能性が高いでしょう」
「なんだか教授っぽいセリフだニャ。教授の動きを要チェックだぞー」
「そういうことです」
「それじゃあよいこのみんな」
「まったねー」
 

教えて知得留先生! 〜ガクガク動物ランド〜 おしまい
 

そんな文字が表示されて番組終了。

「なるほどな……」

確かにセリフさえ覚えていれば、番組じゅうきのこを探す必要はないわけだ。

「子供のものおぼえがよくなったって主婦たちにも好評らしいですよ」
「かもなあ」

きのこを見つけたら小さい子は友達に自慢出来るだろう。

そのためにはセリフを覚えるのが一番確実な方法なわけだ。

「よーし、今度も頑張って見つけちゃうんだから」

アルクェイドは張りきっている。

「まあ頑張ってくれよ」

といいつつ俺は次のガクガク動物ランドでアルクェイドより早くきのこを見つけてやろうと燃えていた。

「じゃ、ガクガク動物ランドも見たことだし、帰ろっか?」
「ん? もう帰るのか?」

テンションがあがってきたからなにかゲームでもやろうかと思ってたのだが。

「ええ。用事は済んじゃったし、シエルはこれから写真の現像しなきゃいけないでしょ?」
「セブンのおかげで残り枚数もゼロになっちゃいましたしね……」
「いいじゃないですかー。最後の写真がみんなで仲良く映ってる写真なんて」
「そうよそうよ。わたしが映ってる写真なんて貴重だと思わない?」

確かにアルクェイドの映っている写真なんて初めてのものかもしれない。

「まあ、それは確かにそうですけど……」
「でしょ。ならいいじゃない」
「そうですよマスター。わたしがいないだけいいじゃないですか。わたしなんか映ったら心霊写真確定ですよ?」
「わ、わかりましたよ。ちゃんと人数分焼き増ししますから。それからセブン。あなたがちゃんと映るフィルムを教会から取り寄せておきます。次はみんなで撮りましょう」
「マ、マスター」

ななこさんの目にじわりと涙が。

「でも今日受けた屈辱はちゃんと後で返しますからね」

にこりと笑うシエル先輩。

「う、うわぁ〜。楽しみだなぁ〜」

そしてななこさんの涙は滝のようになってしまった。

「上手くまとまったみたいね。それじゃ後はよろしく。まったねー」
「あっ、こらアルクェイド。……じゃ、じゃあ先輩、また後で」
「はい。ごきげんよう遠野君」
「ま、待ってください志貴さんっ。もうちょっと家で遊んでいきませんかっ? ほら、わたしが芸とか……」

ばたん。
 

「ななこさん……どうか強くあってくれよ」
「ん? どうしたの志貴」
「いや、なんでもないよ」

俺は居候としての同志ななこさんが、くじけず強く生きて欲しいと心から願った。

先輩が怖いから助けるまでは無理だったけど。

ななこさんなら大丈夫だろう、うん、多分、きっと。

「じゃあ帰ろ? 志貴」
「ああ、うん……」

ななこさんのことはまあ仕方ないとしても、他にもなんか重要な事を忘れているような。

なんだっけ。

「なあ、なんか忘れてないか?」
「ん? わたしは全部聞く事聞けたから問題無いわよ」
「……そうか」

俺のほうもなんかあったような気がしたんだが。

「忘れるようなことなら大した事じゃないでしょ」
「まあ、それもそうかな」

どうせ大した事じゃないだろう。

「じゃあ、帰るか……」

家じゃそろそろ琥珀さんが晩御飯を作って待っているはずである。

「わたし、ちょっと買い物行ってからにするから志貴は先に家に行ってて」
「ん、そうか」
「じゃね」
「おう」

アルクェイドと別れ一人帰路を歩く。

今日の晩御飯は何かなあ、と。
 
 
 
 
 

「おかえりなさい、兄さん」
「……秋葉?」

家に帰った俺を迎えたのは翡翠でもなく琥珀さんでもなく秋葉だった。

「……」

思わず空を見上げてしまう。

雨、いやヤリでも降ってくるんじゃないだろうか。

「何をしているんですか?」
「あ、いや、なんでもないよ。秋葉が迎えてくれるなんて珍しいなと思ってさ」
「あら、珍しいのは兄さんのほうでしょう?」

くすくすと笑う秋葉。

「俺が?」
「ええ。だって、わたしたちのためにデザートを買ってきてくれたんでしょう?」
「……あ」

秋葉。帰りに美味しいゼリー買って来てやるよ。さっき琥珀さんに聞いたんだ。

そ、そうなんですか。では楽しみにしていますね。

「……あは、あはは、あはははは……」

背中をいやな汗が伝う。

「兄さん、もしかして」

両手に何も持っていない俺を見て秋葉は不信感を抱いたようだった。

「い、いやっ。買ったは買ったんだっ。それは間違い無い」

慌てて言い訳をする俺。

「……ではどこかに忘れたと?」
「その、シエル先輩の家の冷蔵庫の中に」
「あらあら、それじゃあ返してくれ、とは言い辛いですねえ」

くすりと笑う秋葉。

「そ、そうだなあ、うん」

これはもしかしなくても。

「では兄さん。中へどうぞ。大事なお話がありますので」
「……」
 

俺もななこさんと同じ運命を辿ってしまいそうである。
 

続く



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