「本当っ? じゃああのゼリーが食べられるのねっ?」

秋葉は目をきらきらと輝かせている。

「……おーい」

実は本当にゼリーを忘れたのに腹を立ててたくあんにしたんじゃないだろうか。

「な、なんですか? も、もちろん兄さんが優先ですよ? ただゼリーが戻ってくるならそれはそれで嬉しいことだということです」
「そうですよー。志貴さん、疑心暗鬼はよくありません」
「……」
 

妹だろうがなんだろうが、俺には女性の心理なんてさっぱり理解できないのであった。
 
 






「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その22









「ふう……」

腹を抱えながら部屋へと入る。

「食いすぎたな、さすがに」

そのままベッドに寝転がった。

秋葉のやつ、ゼリーが来ると知るやいなや「兄さん。せっかくですからキャビアなどいかがです?」と豹変してしまったのだ。

まあおかげでキャビアをおいしくいただけたわけだが。

改めてデザートの恐ろしさを実感した感じである。

「そしてそのゼリーがやってくるか……」

現金なもので、人が期待しているのを見ると同じように期待してしまうものだ。

「アルクェイドのぶんも買っておいてやればよかったな」

いらないとは言っていたけど、食べたら喜んだかもしれない。

「おーい、アルクェイド。いるか?」

そういえば帰ってきてるかなと思い名前を呼ぶ。

「……」

しばらく待ったが反応はない。

あいつ、買い物って何を買いに行ったんだろう。

「……はっ」

そこまで考えて俺は今の状況がまずいんじゃないかと感じた。

今シエル先輩はゼリーを持って遠野家へと向かってきているのだ。

もし途中でアルクェイドと遭遇してしまったら。

いや、もしアルクェイドが俺の部屋に入るところを目撃されてしまったら。

「まずい。まずいぞそれは……」

遠野君。さっきアルクェイドが部屋に入っていくのを見たんですが。

そんなことを言われたら秋葉の機嫌がまたも悪化してしまうじゃないか。

「くそ、まずいぞ……」

アルクェイド、早く帰ってきてくれ。

「たっだいまー」
「おっ?」

俺の願いが神に通じたのか、すぐにアルクェイドが帰ってきてくれた。

「お、おかえり。よかった。危ないところだったんだよ」
「危ないところ? ああ。シエルが来るから?」
「そうそう……ってなんで知ってるんだおまえっ!」

思わず叫んでしまう。

「むーっ。そんなに怒鳴らないでよ、もう」

耳を押さえているアルクェイド。

「わ、悪い。……でもまさかおまえ、それを知ってるってことは」
「ええ。会ったわよ、シエルに」
「……」

俺は頭を抱えてしまった。

「おまえ、余計なこと言ってないよな?」
「なに? 余計なことって」

アルクェイドはきょとんとしている。

「だから……屋根裏部屋に住んでるとか、そういうこと」
「ああ。別に言ってないわよ? わたしたち本屋で会ったんだもん」
「本屋? なんでまたそんなところで」
「うん。ちょっとさっきのが面白かったから、売ってないかなと思って探してたの。そうしたらちょうど発売日だったんだって」

そう言って本を手渡してくれる。

「ウォーリアを探せ 魔界大冒険……って。まさかこれ、新作か?」

それはさっきまでシエル先輩の家で読んでいたウォーリアシリーズの本のようであった。

「ええ。なんか十年ぶりくらいに発刊されたらしいわ。シエルが喜んでた」
「そ、そうなのか……」

ウォーラー(ウォーリアを探せにはまっている人の意)だった俺に、またかつての情熱が蘇ってきた。

「なあ、これ後で見せてくれよ」
「いいわよ。また一緒に探そうね」

にこりと笑うアルクェイド。

「まあ先輩が来てからだから、ちょっと遅くなっちまうけど。適当に暇つぶしておいてくれ」
「うん。ちょっと寝てることにするわ、わたし」
「そうしてくれるとありがたい」

アルクェイドが起きてたらまたトラブルになりかねないからなあ。

「じゃね、志貴」
「おう」

ひょいとアルクェイドは屋根裏に戻っていった。

「さて……」

秋葉たちの様子はどうなってるだろうか。
 
 
 
 
 

「秋葉さま、わざわざ持ってきてくださるのだからお茶菓子でも用意しておきましょうかね?」
「そうね……でもゼリーを出すわけにもいかないでしょう? 人数分しか兄さんは買ってきてないでしょうし」
「確か高級ようかんが戸棚の奥にあったはずです」
「ひ、翡翠ちゃんっ! それはわたしが後で食べようと……」
「それで構わないわね。琥珀。それを用意なさい」
「とほほ……」

シエル先輩を迎えるのにえらい気合の入りようだった。

普段だったら塩でも巻きなさいくらいの勢いだというのに。

「じゃあようかん食べた後にゼリー食べるのか?」

俺はそう尋ねてみた。

「確かにそうですねー。カロリー的には宜しくないです……と言いたいところですが、先に述べた通りあそこのゼリーはローカロリー。いくら食べてもそうは太りませんっ!」

ガッツポーズを取る琥珀さん。

「おまけに美容にもいいときた最高のデザートですよ? そりゃあ女の子なら夢中になるってもんです」

なるほどダイエットか。

確かに女の子はそういうのに夢中になるっていうよな。

「ええ。早く来てくれないかしら……」

秋葉も珍しく女の子な表情をしていた。

「ただ、秋葉さまは一部もうちょっと太るというか大きくなったほうがいいと思われますがー」

ぼそりと呟く琥珀さん。

「……聞こえたわよ、琥珀」
「え? なんのことやらさっぱりわかりませんねー。あ、あはっ。本当に早く来てくれないかなー。シエルさん」

琥珀さんもどうなるかわかっててやるんだから根性あるよなあ。

「そろそろ玄関を見てまいりましょうか?」

翡翠がそんなことを言う。

「そうね。頼むわ翡翠」
「あ。俺も行くよ。ちょっと先輩にお詫びしなきゃいけないからな」

ついでにアルクェイドのことについても聞きたいし。

あいつ、本当に余計なことを言ってないんだろうか。

「かしこまりました。では……」

二人して玄関へと向かう。
 
 
 
 
 

「アルクェイドさまは今どちらへ?」

玄関まで来て翡翠がそう尋ねてきた。

「あ。うん。屋根裏部屋で寝てると思う」
「そうですか。なら安心ですね」
「悪いな、翡翠にまで心配させちゃって」
「いえ、これも仕事ですから」

少し顔を赤らめる翡翠。

「ただ、アルクェイドさんが少し気の毒ですね。あのゼリーは本当においしいですから」
「もしあれだったら俺のを半分残してやるから問題ないって。あいつ、食べ物にはあんまり興味ないし」
「そうですか」
「うん」
「あ。遠野君、翡翠さん。こんばんわ」

そこへシエル先輩が歩いてきた。

「シエル先輩。ごめん、俺うっかりしてて」
「いえいえ。遠野君のうっかりはいつものことですから」
「ははは……」

それもなかなか悲しいんですけど。

「それよりも聞きたいことがあるんですよ」
「ん? なに?」
「いえ……さっきアルクェイドに会ったんですが、妙なことを言ってまして」
「みょ、妙なこと?」

やっぱりあいつ、なんかしでかしたのか。

「な、なんて?」
「ええ。その……遠野君の部屋に屋根裏部屋なんかないから、安心してねと」
「……」
 

俺の思うことはただひとつである。
 

あの……ばかおんな―――っ!
 
 

続く



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