で。

「み、見つけましたよ兄さんっ! ほらここにっ!」
「あー、わかった、わかったから秋葉、落ち着いてくれ」
 

ものの見事にお嬢様は夢中になってしまうのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その24






「違いますよ秋葉さまー。それはウォーリアもどきのウォーザードです」
「くっ……名前まで紛らわしい」
「相変わらずの難易度の高さですね……」
「そこがまたいいんですよ」

すっかり団欒している一同。

「はは……」

そんな光景を見て自然と笑みがこぼれた。

「……む」

そんな中、背中に謎の視線を感じる。

なんだろう。

そっと後ろを振り返ってみる。

「……」

げっ! と声を上げそうになったがかろうじて堪えた。

視線の先ではドアの隙間からアルクェイドが不機嫌そうな顔を覗かせていたのである。

「あ、これはウォーリアの鍵ですね。見覚えがありますよー」
「琥珀、あなたそういう小物によく目が届くわね……」

幸いにも他のみんなはウォーリアに夢中のようで、アルクェイドには気づいていないようだ。

「お、俺、トイレ」
「あ、はい。行ってらっしゃいー」
「どうぞー」
「行ってらっしゃいませ」

振り返りもしないみんな。

まあ今はそのほうが好都合である。

「じゃ、行ってくる」

ドアのほうへ向かっていくと、アルクェイドは慌てた顔をして飛んでいった。
 

ばたん。
 

「こら、待てこのっ」

ダッシュでアルクェイドを追いかける。

「……」

ところが意外な事に角を曲がったっところでアルクェイドは止まっていた。

「何よ、志貴」

そうして俺を睨み付けてくる。

「どうしたんだよ。部屋で寝てるって言ったのに」
「だって寝れなかったんだもん。しかも様子を見にきたら志貴ってばシエルたちとウォーリアやってたでしょ」
「あ、いや、それはその」
「ふんだ。志貴のバカ。一緒にやろうって言ったのに」
「それは……悪かったけど」
「いいもん。もう見せてあげないんだから」

いかん、どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。

「さ、最初のほうしか見てないしさ」
「知らないもん」

そっぽを向くアルクェイド。

「……」

なんだかこっちもむっときてしまった。

「なんだよ、おまえだって出てきちゃダメだって言ったのに出てきたじゃないか」
「そ、それは……その、だって、つまんなかったんだもん」
「つまんなかったじゃない。いつもは我慢してるだろ」
「だ、だって、みんないるって聞いたら……なんか……寂しくなっちゃって」
「う」

そんな事を言われるとどうにも困ってしまう。

「……ごめんね、わたしが悪いんだよね」

しゅんと落ち込んでしまうアルクェイド。

「あー、もう」

そんな風に構ってオーラを出されてしまったら、俺としてやるべきことはひとつしかないじゃないか。

「わかった。ちょっと上手く説明して部屋に戻るから。そしたらなんでもいいから遊ぼう。それでいいだろ」
「ほんと?」

途端にアルクェイドの表情が輝いた。

「ああ。ほんとだ」
「わーい。だから志貴って好きっ!」

そう言って抱きついてくるアルクェイド。

「こ、こらこら……」

こういう時、俺は本当にこいつに好かれてるんだなあと実感する。

なんだか申し訳ないくらいだ。

「とにかくすぐ戻ってくるから。ちゃんと待ってろよ。絶対だからな」
「うん。待ってるね」

アルクェイドはスキップしながら階段を昇っていった。

「……さて」

それじゃあ先輩には悪いけど、上手く言って部屋に戻らなきゃな。
 
 
 
 
 

「きゃー! 懐かしのルークおじさんですよ? 初代に出てた人じゃないですか?」
「こちらはマリアルイゼさまですね……」

相変わらずこっちは大盛り上がりである。

「あー。ごめん、ちょっと俺、今日はちょっと疲れたからさ。部屋で休む事にするよ」

ちょっと大声で叫ぶ。

「え、あ、はい。そうですか……ってもうこんな時間なんですね」

時計を見て慌てるシエル先輩。

「じゃ、じゃあ、あの、申し訳ないんですがわたしも今日はここで帰ります」

そうか、先輩ももうそろそろ夜の巡回だもんなあ。

「えーっ? もう帰られてしまうんですか?」
「あ、あはは。もし宜しければ本はお貸ししますよ」
「えっ? いいんですか? どうもありがとうございますっ」

ガッツポーズを取る琥珀さん。

何気に翡翠もガッツポーズを取っていた。

「ええ。明日はアルクェイドの学校ですし」
「ああ。そういえばそうですね。これはいけません。翡翠ちゃん。わたしたちも準備しないと」

思い出したように手を叩く琥珀さん。

俺も危うく忘れるところだった。

明日は日曜日、アルクェイドの学校なのだ。

「はい。明日は気合を入れて頑張りましょう」
「じゃあ、今日はこれでお開きってことで。いいですかね? 秋葉さま」
「……えっ? あ、ああ、はい。お開きね、お開き」

秋葉はまだウォーリアに夢中になっていたようだ。

「ゼリーもまたの機会ってことで。構いませんよね? 本は貸してくださるそうです」
「……そうね。いいわ。楽しみは後にとっておきましょう。今日はなかなか有益な時間を過ごせましたし」

秋葉はかなりご満悦である。

「では、わたしはこれで失礼しますね」
「あー。シエルさん、志貴さんに途中まで送って頂いてくださいな。女性一人の夜歩きは危険ですよ」
「え? あ、いえ、わたしは別に……」

そらそうだ。先輩はむしろこれから夜の巡回をするんだから。

「構いませんて。ほらほら志貴さん」
「あ、え、ちょっと」

琥珀さんに背中を押されて先輩の前へ。

「えー、じゃあ、その、門のところまでで結構ですので」
「……あ、ええと、うん」

まずいなあ、アルクェイドが待ってるんだど。

けどまあそれくらいまでならいいか。

「じゃ、行きますか」
「うん」

二人して玄関へ。
 
 
 

「いやいや、今日は本当に楽しかったですよ」

門までなんてあっという間である。

軽い雑談をしてすぐに到着してしまった。

「ああ、いや、こちらこそ。先輩の家ではアルクェイドが世話になったし、こっちじゃ秋葉が世話になった」
「あはは。秋葉さんがあんなにはまるなんてびっくりです。今度他の本も持ってきましょうか?」
「ああ、いや、それは琥珀さんが持ってるみたいだから問題ないよ」
「そうですか。……ん。わかってますよセブン」
「セブン?」

何故にここでななこさんの名前が。

「ああ、いや、セブンからの連絡です。定時ですよと」
「あ。そっか。頑張ってね、先輩」

どうやら先輩とななこさんはテレパシーででも通じてるようだ。

「じゃ、そんなわけで……あ。これよかったらどうぞ」
「これは?」
「例のゼリーです。ちょっとデパートに立ち寄ったらまだ余ってたんで」
「ほんとに? わざわざありがとう」
「いえいえ。じゃ」

先輩は早足で駆けて行った。

ちょうどいい、これはアルクェイドにあげよう。

俺も屋敷へと駆ける。

「屋根裏部屋の姫君にも宜しく言っておいてください」

刹那。

後ろからそんな声が聞こえた気がした。

「………………え?」

慌てて振り返る。
 

しかしそこにはもう、シエル先輩の姿はなかった。
 

続く



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