「その、許しませんとか、認めませんとかそういうのはないの?」
「と、言いますと?」
「いや……だって先輩は教会の人だし、昨日アルクェイドが遊びに行ったときもあんなに怒ってたのに」
「ああ。それ、前者と後者で別問題ですよ。遠野君はなんでもごっちゃにしてしまうから困ってしまいますね」
「え……えっ」
さっぱり自体が飲み込めなかった。

「ええと……その、詳しく説明してくれるとありがたいんだけど」
「そうですね。わかりました。教えて知得留先生ならぬ……教えてシエル先輩、始めましょうか」
 

シエル先輩は年上に相応しいような、余裕ある笑みを浮かべているのであった。
 
 
 
 


「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その27












「まず、埋葬機関の人間のわたしとして話しますね」
「う、うん」

正直言って俺には何がどう違うのかまるでわからなかった。

先輩は教会の人間だからアルクェイドを敵視していたんじゃないのか?

「教会にとっては現時点でのアルクェイドは危険な存在ではないですし、倒す相手でもないんです」
「え? そ、そうなの?」

てっきり先輩はアルクェイドを倒せ、とかいう命令とかされてるもんだと思ってたんだけど。

「ええ。アルクェイドは今までに死徒を倒しています。だから、教会にとってはある意味味方とも言えるんです」
「つまり死徒っていう敵が一致してるから?」
「そうですね。ただ八百年前にアルクェイドは吸血行為を行っています。だから一応監視しなくてはいけない存在でもある」
「じゃあ、もしかして先輩はアルクェイドを監視をしてる状態なのか? また吸血行為をしないように」
「おや。察しがいいですね。その通りなんです」

先輩はにこりと笑った。

「実は今のわたしの仕事はそれがメインでしてね。遠野君、ずっとわたしが街にいて不思議だと思いませんでしたか?」
「え、いや、先輩はいるのが当たり前になってたから……」

そうだよなあ、先輩はちゃんとした仕事が別にあるんだもんなあ。

もしかしたらずっと遠くにいってしまう可能性だってあったのだ。

「あはは。それは嬉しいことですね。まあ、皮肉でもありますがその仕事のおかげでわたしはこの街にいられるわけです」
「そっか……大変なんだね」

学生と社会人を両立している先輩は本当に凄いと思う。

「まあ慣れてますから。で、わたしはセブンに索敵能力をつけ、アルクェイドを監視しやすくしました」
「うん。それで?」
「ところが最初の実験で得られた結果は、アルクェイドが遠野君の部屋の上にいる、というデータだったんです」
「あ……それってまさか」
「ええ。おまわりさんに追われている、かくまって欲しいと言った時がありましたよね」
「……なんてこった。それ、アルクェイドが屋根裏部屋に住むことになった初日だぜ」

やはり先輩はあの時からアルクェイドが屋根裏部屋にいるというデータを持っていたのだ。

「あらら、そうだったんですか。それはなんというか……まあ遠野君にとっては悪い事でしたねえ」

先輩は目を丸くしていた。

「いや、でもシエル先輩は何も言わなかったし、何もしてこなかったじゃないか」

家に泊まったは泊まったけれど、それ以上のことは何もなかった。

「そりゃ監視だけが目的ですから。居場所がわかってればいいんです。しかも保護者がいるんだったらわたしは監視なんかしなくたっていいってことになっちゃいますもん」

先輩はやれやれという感じのポーズを取っていた。

「ほ、保護者?」
「だから、遠野君ですよ」
「保護者……」

なんだか急に自分が老け込んでしまったような気になってしまう単語である。

「真面目な話、遠野君はアルクェイドを殺せるほぼ唯一の人間です。アルクェイドに対する有効兵器を近くに置いておくことは不測の事態への対応がしやすくなる」
「……」
「まあ、それは教会の立場としての話でして。わたし個人としては遠野君にあんまりそういうことはさせたくないです」

苦笑する先輩。

「いや、でも覚悟はしておかなきゃいけないんだろうな」

アルクェイドの力は本当にとんでもないものなのだ。

もしまたアルクェイドが暴走してしまったら、それこそ世界の危機になる。

「ああ。だからこそのアルクェイド学校じゃないですか。伊達や酔狂で協力しているわけじゃないですよ?」
「え?」
「んー……と。じゃあ、まずアルクェイドが暴走する要因を教えましょうか」
「そ、それは一体?」

俺は固唾を呑んだ。

「アルクェイドは欲求不満で暴走します」
「……はい?」

なんだそれは。

それじゃただの我侭娘みたいじゃないか。

「いや、言い方が悪かったですね。アルクェイドが暴走する、それはつまり吸血行為に走るということです。真祖は常に吸血衝動を己の意思で抑制している。それは知ってますね?」
「ああ……うん、まあ」

一度だけアルクェイドに血を吸われそうになったことがあった。

その時のアルクェイドは本当に弱りきっていたから、意思の力で吸血衝動を抑えきれなくなってしまったんだろう。

なんとかその時は助かり、そういう説明をアルクェイド自身にされた。

「それで、遠野君と出会う前のアルクェイドは主に睡眠欲を満たすことでその欲求を補っていました。ほとんど自我がありませんでしたからね。それくらいしか欲求もなかった」
「そうだったんだ」
「ええ。ですが今のアルクェイドはどうでしょう。あれが欲しい、これが欲しい、何をやりたい、どこへ行きたい。欲求だらけでしょう?」
「ああ……そうだな」

その欲求によって俺は散々振り回されている。

だが悪い気はしないし、それがアルクェイドなんだとばかり思っていた。

「前にも言いましたが遠野君に出会ってアルクェイドは変わった。そして今のアルクェイドの最大の欲求は睡眠ではなく、遠野君と一緒にいたいということです」
「……」

なんだか俺は自分の体温があがっていくのを感じた。

そういうことを話されるっていうのはやっぱり照れくさいものがある。

「遠野君と一緒にアルクェイドがいることは、それだけで吸血衝動を抑える事になります。逆に言うとアルクェイドの欲求を満たしてやらなければ吸血衝動は強まる可能性がある」
「常にあいつを満足させてやらなきゃダメってこと?」
「いえ。そこまでは言っていません。元々真祖の意思は強力ですから。ただいくら稼ぎが増えても悪くないでしょう?」
「そうだな……うん」

不満であるよりは満足しているほうが誰だっていいに決まってる。

「ただまあ遠野君に入れ込むあまり、別の問題も生じてしまいましたが」
「別の問題?」
「はい。以前アルクェイドが学校の生徒たちを洗脳したでしょう」
「……」

先輩の言うとおり、一度だけアルクェイドは暴走した。

アルクェイドが俺と一緒に学校に行きたいという欲求を叶えてやらず、生徒全員を洗脳するという強引な手段を取って学校に紛れ込む事でそれを満たそうとしたのだ。

「アルクェイドはまだまだ感情のコントロールが不得手過ぎる」
「そう……だな」

だからこそのアルクェイド学校。

「あ、そっか。そういうことか」
「ん? わかりましたか?」
「だから、アルクェイドが感情のコントロールを覚えれば、暴走する可能性は減るってことだろ。それは教会にとってもプラスになるわけだ」
「そうです。そういうことです」

先輩は満面の笑みを浮かべていた。

「で、あるからして教会として今の状態は好ましい状態なんです。吸血衝動、暴走さえしなければアルクェイドは頼もしい味方なわけでして」
「そうなんだ……ふーん……」

つまりそれは俺の行動が気づかないところで高く評価されていたということである。

「じゃ改めて確認するけど、教会のほうとしては俺とアルクェイドの同居は全く問題ないんだ?」
「ええ。教会の立場としては断言します」
「……むぅ」

やはり教会の立場としてはというのが気にかかる。

「じゃあ、先輩個人としては何か問題が?」
「んー……うー……そう聞かれると非常に答えづらくなっちゃうんですけどねぇ……まあ話してしまった手前、仕方ないですけど」

先輩は照れくさそうに頬を掻いていた。

それから諦めたような顔をしてこう言うのであった。
 

「つまるところ、やきもちなんです。ただの」
 

続く



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