「よーし……」

そうと決まればなお気合が入る。

さて、どんな意地悪をしてやろうか。

「……」
 

なんだか悪ガキのような思考をしている自分に気づいてしまったが、それはそれでなかなか楽しいものなのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その33






ちゃーちゃちゃちゃーっちゃちゃっちゃー。

「おっと……」

音楽が鳴り始めた。

「なんだか聞いているだけで楽しくなるような曲ですね」
「まあ伝説だからな」

さて、急いで邪魔する方法を考えなくては。

ずんずんずんずんずーんずんずん、ずーんずんずんずーんずーん。

音楽と共に先輩とアルクェイドが入ってくる。

「楽しみですね〜」

ななこさんは興味津々のようであった。

「では行きますよ、アルクィエイド」
「わかってるわ」

原作(?)と違って二人はしっかりとしゃべっている。

終始無言で笑いを取るのは難しいだろうから、まあ無難な選択だろう。

アルクェイドと先輩は左右対称の動きをしながらそれぞれ部屋の隅へと移動する。

「よっ」

先輩は後ろから黒鍵を取り出した。

いつも思うけど、あれどこに仕舞ってるんだろうなあ。

「ふふふ」

アルクェイドは部屋の端っこに置いてあったボールを手に取っていた。

なるほど最初はやっぱりそれか。

「行くわよ……えいっ」
「はっ!」

さくっ。

先輩がボールのど真ん中を突き刺した。

「わー。さすがですねマスター」

ななこさんがぱこぱこ音を立てて拍手をしている。

「えいえいえいっ」
「よっ、はっ、いやあっ!」

さくさくさくっ。

「おおお……」

今度は三個連続で投げられたボールを空中で見事に突き刺していた。

思わず俺も拍手をしてしまう。

「ふふふ。遠野君まで感心してどうするんですか?」
「え、あ、ごめん。つい」

そうだ、俺は邪魔をしなくちゃいけないのだ。

「次はこれをやるわよー」

アルクェイドが手にお盆を持っていた。

そしてお盆の上には水のたっぷり入った紙コップがいくつか置かれている。

「それをどうするんですか?」

ななこさんが尋ねた。

「こうするのよ」
「はい」

先輩がいつの間にやら長いステッキを持っている。

その上にアルクェイドがお盆を置いた。

「だ、大丈夫なんですか?」
「これくらい序の口ですよ」

先輩は余裕の表情である。

「よっ……と」

そしてそのままステッキを上に持ち上げた。

お盆は屋根にぶつかるかぶつからないかという高さである。

「あわわわ……マスター、大丈夫なんですよね」
「平気ですよ。誰かに邪魔されなきゃ」

俺に向けてにこりと笑う先輩。

それはやれるもんならやってみろという挑発である。

「よ、よーし」

そこまでされたらやるしかあるまい。

「わたしも邪魔するわよー」
「ん?」

アルクェイドはさっきのボールを手に取り先輩へ向けて放り投げた。

「ひょいと」

先輩はちょっと体を動かしただけでそれをかわしてみせた。

「えいえいっ」
「無駄ですね」

アルクェイド球をものともしない。

「うーむ」

この状況で俺が一緒にボールを投げても多分無意味だろう。

ならば別の方法で邪魔することを考えよう。

「よし」

ここは琥珀さん張りの心理作戦でいこう。

「……カレーがこの世から存在しなくなる」

べちっ!

「あ、あれ?」

俺の呟きで先輩は一瞬動きを止めた。

そしてその顔面にアルクェイドの投げた球がぶつかったのである。

「ぷっ……」

ななこさんは思いっきり吹き出していた。

「……」

ぎろりとななこさんを睨み付ける先輩。

「わわっ。笑っていいといったのはマスターですよ?」
「そうよシエル。今のはシエルが悪いわ」
「くっ……」

先輩は一瞬渋い顔をしていた。

しかしすぐに。

「ふっ……遠野君。いくらなんでもそれはあり得ませんね。そんなことでわたしが動揺するとでも?」

と笑ってみせる。

「いや、思いっきり動揺してたし」
「き、気のせいですよっ」

ぐらぐらとステッキの上のお盆が揺れる。

「シエル、危ないわよ」

アルクェイドがステッキを抑えて揺れを止めた。

「今度はわたしがやるわ」
「わ、わかりました」

先輩からアルクェイドにステッキが移る。

「はぁ〜。ドキドキしましたね。駄目じゃないですか志貴さん、マスターの邪魔をしては」

ななこさんが困った顔をしている。

「いや、それが今の俺の役目なんだ。最初に言っただろ」
「うー」
「それに、ななこさん笑ってたじゃないか」
「そ、それはそのう」

露骨に目を反らせるななこさん。

「ほら、志貴。わたしを邪魔しなくていいのかしら?」
「って訳なんだ。大丈夫。ななこさんは普通にしててくれればいいから」
「はぁ……」

さて、どんな邪魔をしてやろうか。

「てやっ、てやっ」

今度は先輩がアルクェイドにボールを投げている。

「無駄っ、無駄っ」

アルクェイドは片手でそれを叩き落としていた。

「……」

やっぱり一緒にボールを投げるという邪魔では無意味のようだ。

やはり精神攻撃をかけねばなるまい。

「アルクェイド。今日の晩飯はにんにくラーメンだ」
「ふふん。別にご飯なんか食べなくたって平気だもんねー」
「……くっ」

そうだった。こいつに食べ物関連の攻撃は無意味だったのだ。

「他に何か……」

こいつが苦手なものってあったっけ。

たとえば胸の先端を重点的に攻めると嫌がるけど、それはイヤよイヤよも好きのうちってやつで。

「違う、もっとマトモなのだ」

そんなこと出来るわけがないだろうが。

「志貴さんどうされました?」
「うわっ」

ななこさんの顔が目の前にあった。

ヨコシマな事を考えていたもんだから、心臓がばくばく言っている。

「い、いや、うん。どんな邪魔をしようかなと思って」
「はぁ。邪魔するのもなかなか大変なんですねえ」
「だなあ」

ごく自然に妨害やら援護をやってのける琥珀さんは本当に凄いと思う。

あの才能をもっと世界平和とかのために使ってくれればいいのに。

「まあ、ここはシンプルに行ってみるか……」

あれこれ考えすぎてしまうと逆に失敗するからな。

「アルクェイドー。うしろー」

これも伝説のお笑い番組でやってたネタだ。

「え?」

くるりと後ろを振り返るアルクィエド。

だが後ろには壁しかない。

「何よ、何もないじゃない……」

ここで戻ってきたときが重要なのだ。

俺は自分で考えられる限りの最大級の変な顔をしてアルクェイドを待ち構えていた。

「……」
「……」

アルクェイドと目が合う。

いかん、すべっただろうか。

「ふ……ふふふふふ」

しかしすぐにアルクェイドは表情を崩し、小さく震えていた。

「あはっ、あは、あはははははっ! 何それ志貴っ。おっかしーいっ!」

大笑いしているアルクェイド。

自分でやったこととは言えかなり悲しい。

「あはっ、あははははっ! し、志貴さんっ、それは反則っ! 反則ですって!」

関係ないななこさんまで大笑いしている。

「……くくくっ」

先輩まで腹を抱えてるしっ。

「あははははははっ! あーもう、止まらない……」

ぐらぁっ……

そしてバランスの崩れたお盆は、ナナメに傾いて。

ばしゃーん。
 

お約束どおりアルクェイドと先輩の頭に水が被さるのであった。
 

続く


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