「冗談じゃない。そんなこと絶対に……」
「アルクェイド?」
「ええ。わかってるわ」

目配せしあう二人。

俺の第六感に危険を伝える信号が流れた。

この場は一刻も早く引くべきだ、と。

「じゃ、じゃあ俺はこの辺で」
「待ちなさい志貴っ」
「痛くしませんから。うふふふふ……」
「だーっ!」

しかし人外の能力を持つ二人に太刀打ちが出来るわけもなく、俺はあっさり捕まってしまった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その35











その後のことは語りたくもないのだが。

要するに先輩とアルクェイドにひん剥かれて制服を着せられてしまった。

「うう、もうお婿に行けない……」

しくしくと泣きながら服の裾を噛む俺。

「いいですね〜。その表情。たまりませんよー」

ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ。

シエル先輩がパパラッチと化していた。

「てい」

カメラのレンズを手で塞いでしまう。

「ああっ! 何するんですか遠野君っ!」
「撮るなっつったでしょう。勘弁してくださいよ……」

こんな気持ち悪い姿を残してなるものか。

「あはは、志貴かわい〜」

アルクェイドがひらりと俺のスカートをめくる。

「や、止めろバカ」

なんだか知らないが無性に恥ずかしい。

っていうかスカートのせいで下半身がスースーしていて変な気分だ。

「アルクェイド、脇っ」
「おっけー」
「こ、こらっ、やめろっ、わは、わははっ……」

ここぞとばかりにアルクェイドが脇腹をくすぐってくる。

「チャンスっ」

先輩が俺の手を引き剥がし再び撮影姿勢に。

「ていやっ」

そしてアルクェイドが俺を羽交い絞めにした。

「くそっ……」

剥がそうと暴れてもアルクェイドは身じろぎもしない。

「ふふ、観念なさい、遠野君」

先輩の手がシャッターに伸びる。

「す、ストップ! ずるいよ先輩。俺ばっかり。先輩も俺の制服着てくれよ」

俺はやけくそ気味にそう叫んだ。

「と言っても今ここに遠野君の制服はありませんしね」
「う……」

そうだった。今日は私服で来たんだった。

「じゃあ、その今脱がされた服でいいから」

足で脱がされた私服を差す。

「こ、これをですか?」
「ああ」
「遠野君の脱いだばかりのものを?」
「そ……そう」

なんか言い方が引っかかるけど俺は頷いた。

「そうですか。ふふふふふ」

先輩は妙に嬉しそうだ。

「む……なんかずるい気がする」

アルクェイドも不機嫌そうな声を出している。

「……」

というかさっきからずっと背中に柔らかい双丘が当たり続けているんだが。

スカートで大丈夫なんだろうか、俺。

めくれあがったりしないだろうか。

「ではちょっと着替えて来ますねー」

先輩は俺の服とカメラを持って去っていった。

「ちぇ」

カメラを置いていってくれればナイフで切断できたのに。

「ねえ志貴。やっぱりわたしが服を交換しようか」

アルクェイドが羽交い絞めを解いてそう提案してきた。

もうちょっと密着しててもよかったんだけどなあ。

「いや、服は持ってかれちゃったしな。俺と先輩で交換したらって提案したのはおまえだろ?」
「それはそうなんだけど……うー。失敗した気がする」

俺の服を着るぐらいでそんな考えなくてもいいだろうに。

「俺なんかそのせいでスカート履いてるんだぞ? わかってるのか?」
「うん。それは可愛いから問題なし」
「……あのなあ」

すね毛の生えている女子高生なんかやだぞ俺は。

「お待たせしましたー」
「お」

どうやら先輩が着替え終わったようである。

「わ、マスター……」

ななこさんが目を丸くしていた。

「おお……」

かくいう俺もかなり驚いている。

シエル先輩は知得留先生の時も髪型まで再現していたが。

今回も、しっかり俺の髪型に整えられていた。

「へえ……鏡に写ってるみたいねえ」

これにはアルクェイドも感心しているようだった。

「まったくどうかしてる、って感じですかね。ふふ」
「な、何それ?」
「遠野君よく言ってますよ? 気づいてなかったんですか?」
「そ、そうだっけ」

まあ無意識のうちによく使っていたんだろうな。

口癖なんてのはそんなもんである。

「ちぇ。これじゃわたしが志貴の服を着るのは諦めたほうがよさそうね。こっちのほうが絶対面白いもん」
「ふふ。すいませんねアルクェイド。これでも変装は得意なんです」
「後から見たらどっちがどっちだかわからないですよー」

ななこさんの声が後ろから聞こえた。

「セブン。うるさいですよ……ってか」
「わー。勘弁してくださいマスター」

わざとらしく怖がるななこさん。

「……先輩。俺はそんなにセブンを怒ってばかりじゃないよ」

シエル先輩が俺の口調で苦笑してみせた。

「あはは。雰囲気出てる」

細かい仕草やニュアンスまで俺そのものだった。

「でも口調まで変えるのは紛らわしいかもね。あえて口調はそのままのほうがいいかも」
「うーん……そうかもな。俺は先輩を真似しきれないだろうし」

ちょっとしたネタでやる程度ならともかく、ぶっ通しで真似るのは不可能だろう。

「あのう、提案がひとつー」

そこでななこさんが挙手をしていた。

「なんですか? セブン」
「アルクェイドさんは誰かの真似をなさらないんですか?」
「わたし? わたしは……どうしよっか?」

俺に視線を向けてくるアルクェイド。

「うーん。メインは先輩とアルクェイドだからなあ。アルクェイドにもインパクトは欲しいところだけど」

このままじゃ俺と先輩だけが目立ってしまう。

「ですよね? だから、わたしの格好なんてどうでしょうーなんて」
「ななこさんの……?」

ななこさんの格好をじっと見つめる。

ななこさんはこう、なんて言ったらいいのかわからないけど、一言で言えばかなり際どい格好である。

それをアルクェイドが着たら……と想像してみる。

「……素晴らしい」

俺は思わずそう呟いてしまった。

「セブン。あなたの姿を知っているのはわたしとアルクェイドと遠野君だけなんですよ? 意味ないじゃないですか」
「あ、うー」
「……はっ!」

今の呟き先輩に聞かれなかっただろうか。

いや、もう心配しなくてもいいんだっけ。

「セブンの格好は志貴が喜ぶけどみんながわからないから駄目ね」
「ええ、喜ぶのは遠野君だけです」
「う……」

しっかり聞かれてしまっていたようだ。

「ちぇ。どうせ俺はスケベですよーだ」

俺はそっぽを向いてみせた。

どうもアルクェイドの拗ね癖がうつってしまったようだ。

「その表情ゲットですっ!」

パシャッ!

「くっ……」

忘れた頃にまた撮影攻撃とは。

さすがはシエル先輩である。

「アルクェイド。俺ばっかり撮ってもしょうがない。先輩も撮ってやろう」
「え? わ、わたしはいいですよ。あはは……」
「そうね。シエルも確保しておくべきだわ。セブン?」
「はーい。マスター、お許しをー」

ななこさんが先輩を羽交い絞めにしていた。

今日は羽交い絞めの多い日である。

「こ、こらっ! ちょっとセブン! なんでアルクェイドの命令を聞くんですかっ!」
「そっちのほうが面白そうだからです」

ああ、シエル先輩も忠実なしもべを持ったもんだなあ。

「……後で怖いですよっ」
「うわっ。じゃあ離します」

先輩の脅しでななこさんが手を離すが時既に遅し。

アルクェイドの手にカメラは移っていた。

「ふっふっふー。さあシエルを激写してあげるわ」

カメラを構えるアルクェイド。

「そ、そんなことさせませんよ」

とか言いながらポーズを取っているシエル先輩。

実は撮られる気満々なんじゃないだろうか。

「と見せかけて志貴を激写っ!」
「へ?」

パシャッ。
 

俺は思いっきり間抜けな顔をしたところを撮られてしまうのであった。
 
 

続く


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