カメラを構えるアルクェイド。
「そ、そんなことさせませんよ」
とか言いながらポーズを取っているシエル先輩。
実は撮られる気満々なんじゃないだろうか。
「と見せかけて志貴を激写っ!」
「へ?」
パシャッ。
俺は思いっきり間抜けな顔をしたところを撮られてしまうのであった。
「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その36
「わーい。撮っちゃった撮っちゃった」
子供のようにはしゃいでいるアルクェイド。
「俺を撮ったってしょうがないだろうが……」
「だって志貴可愛いんだもん」
「可愛くない」
なんだか怒る気力も失せてしまった。
「あ、アルクェイド。わたしはどうなったんですか?」
シエル先輩はポーズを取ったままである。
「うん。今撮るね」
アルクェイドが先輩へ向けて使い捨てカメラを向ける。
かちっ。
「あ、あれ?」
「どうしたんだ?」
「なんかシャッターが切れないのよ」
「どれ……巻いてないんじゃないか?」
使い捨てカメラは使う前に歯車みたいなやつを巻かないと使えないのである。
「……って。なんだ。フィルムが切れたんだな」
残り枚数を表示するところがちょうど0になっていた。
歯車を巻いても空回りするだけである。
「そ、そんな。じゃあわたしの写真は無しですか?」
「残念だけど無しだな」
「そんな……」
先輩はうなだれていた。
「俺の写真なんかいっぱい撮ってるからだよ。気持ち悪いだけなのにさ」
「いえ。遠野君のこの姿を撮れなかったと考えればわたしくらい問題ありません」
「ぬう……」
やっぱりこのカメラは殺しておくべきだろうか。
「遠野君。先に言っておきますが、それは昨日撮った写真が入っているやつです。わたしの仕事の資料も入っています。殺すなんて駄目ですよ」
「な、なんで俺の考えてることがっ?」
「だって、反対の手で短刀を探してるんですもん」
「はっ……」
慌てて左手を隠す。
「それに、今の遠野君はスカートなんです。腰を探ったってポケットはないですよ」
そうだった。今は先輩の服だから七夜の短刀が無いのだ。
「これですね。遠野君のマル秘アイテム」
履いている俺のズボンから短刀を取り出すシエル先輩。
「教えてやる。これがものを殺すってことだ」
そうして妙なポーズを取ってかっこつけている。
「あはは。志貴シエルかっこいー」
アルクェイドは先輩に変なあだ名をつけていた。
「く、くそう……」
なんだか俺のアイデンティティーを奪われてしまった感じである。
「もうフィルムも尽きたんだしさ。服を返してよ」
俺は先輩にそう頼んだ。
「そうはいきませんよ。この格好に着替えたのはより実践に近い練習をするためなんですから」
「そうよそうよ。志貴は黙ってその服を着てればいいの」
アルクェイドの言葉で俺はかちんときた。
「いいかげんにしてくれ! 俺もうやだよこんな格好!」
やや強めの口調でそう叫ぶ。
「……」
「……」
先輩とアルクェイドは目を丸くしていた。
俺が叫ぶことなんか滅多に無いからびっくりしているんだろう。
少し強く言いすぎたか。
いや、いつもやられてばかりじゃ駄目だ。
たまには俺も威厳を示さなくては。
「……いいですね。そのセリフ」
「へ?」
先輩の口から出たのはまったく予想しなかった言葉であった。
「そうね。その意外性がウケるかも」
アルクェイドまでそんなことを言う始末である。
「ちょっと台本を書いてみましょうか」
「いいわね。やってみてよ」
「ちょ、ちょっと二人とも? 俺の話を……」
「志貴さん志貴さん」
「……ん?」
声に反応して振り返るとななこさんが。
「無駄だと思います。もうこうなったらマスターを止める事は出来ませんよ。どうにも止まりません」
「……ななこ困っちゃうってか」
「は?」
「いや、なんでもないよ」
やはりななこさんに日本の古いネタは無理があったか。
ネタというのは相手が理解出来てはじめて面白いものなのである。
「俺、適当に服脱いどくよ。タオルかなんか持って来てくれるかな」
「あ、はーい」
タオル一枚でも今の姿よりはマシな気がする。
「ええと……」
上着のを脱ぎ、シャツのボタンをぷちぷちと外してはらりと後ろへ。
これが女の子の着替えシーンだったらいいのだが男の着替えなので面白くもなんともなかった。
「っていうのは……」
「いえ、それでは遠野君のキャラが……」
二人は話し合いに夢中になっている。
この間にさっさと全部脱いでしまおう。
音を立てないようにゆっくりと立ち上がり、スカートに手をかける。
そのまま一気に。
「……ぬ」
脱げない。
スカートはウェストにぴったりしていてまったく動く気配がなかった。
なんだ? どうなってるんだ?
腰元を必死で探る。
「こ、これか」
ちょうど真横にボタンを見つけた。
なるほどこれでくっつけていたのか。
ボタンを外すとスカートはあっさりゆるくなった。
「ずいぶん無駄な知識を得てしまった」
この先生きていく上でこの知識は役に立つんだろうか。
アルクェイドのスカートを脱がすときとか。
「……アホか」
自分自身にツッコミを入れながらスカートを下ろす。
「ぬっ……」
ところが脱ぎ方が悪かったのか、足を上げたところで引っかかってしまった。
「くっ……この……」
足を抜け出そうと曲げたりスカートを引っ張ったりしてみる。
「ぬ……ぐ……あっ」
だが俺は見事にバランスを崩し。
びったーん!
思いっきりずっこけてしまった。
「なっ……遠野君っ、何してるんですかっ?」
しまった。先輩に見つかってしまったじゃないか。
「何って……脱いでるんだけど」
間抜けな格好ながら的確な返答を返す俺。
「ふ、服を脱ぐって……まさか志貴、わたしたちを襲うつもりっ?」
「するかっ! もうこんな格好やだから脱ぐだけだ!」
引っかかっていたスカートを強引に剥ぎ取る。
俺はトランクス一枚の姿である。
「と、遠野君……」
シエル先輩は目に手を当てているけど全然隠れてない。
というか多分隠す気がない。
「先輩。服返してくれよ。このままじゃ俺風邪引いちゃうよ」
「……そんなに嫌でしたか?」
「ああ。嫌だ」
「……わ、わかりました。着替えてきますよ」
先輩は渋々と言った感じで引き返していった。
「あーあ。せっかく可愛かったのに」
アルクェイドはやたらと残念そうな顔をしている。
「勘弁してくれよ。先輩の制服はおまえが着てくれ。俺はどうせ脇役なんだから私服でいい」
「わたしがシエルの制服を? それはそれで面白そうね」
一変してにこりと笑う。
「はぁ」
最初からそうすればよかったなと今更ながら思ってしまった。
「……っくし!」
思いっきりくしゃみをしてしまう。
「いかん、やっぱり裸じゃ寒いか……」
「大丈夫? あっためてあげようか?」
「ん?」
「こうするのよ」
そう言うとアルクェイドは俺の背中に抱き付いてきた。
「こ、こらっ……」
普段だったら恥ずかしいから離せというところである。
「……まあいいか」
けど、今はアルクェイドの体温が心地よかったのでそのままにさせておいた。
「えへへ。志貴ってばアルクェイドの胸が当たって……とか考えてるんでしょ」
「おまえなあ。人がせっかく意識しまいと頑張ってたのに……」
確かにアルクエィドの言うとおりである。
しかも俺は裸なのでよりその感触が実感されていた。
「このやろう」
ほっぺたを突いてやる。
「あん」
アルクェイドは妙に艶っぽく悶えていた。
「遠野君。アルクェイド。人の家でいちゃつくのは止めてくれませんか……」
そして目の前でものすごく疲れたようなシエル先輩がため息をついているのであった。
続く
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