「何よ何よ志貴。どうしたの?」
「とっておきのイタズラを思いついたんだ。手伝ってくれ」

多分メモ帳に書いてある全てのものよりタチの悪いイタズラだ。

ただ、協力者が必要となるけど。

「わたしに?」
「ああ。むしろおまえじゃないと駄目だ」
「そっか……わたしじゃないと駄目なんだ。なになに?」

アルクェイドは目を輝かせていた。

元々子供っぽいのでこういうことには協力的である。

まあ、それを提案する俺も人の事を言えた立場じゃないんだけど。

「まずな……」
 

俺は先輩へ捧げる史上最大のイタズラの概要をアルクェイドに説明し始めた。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その39












「ふんふん……なるほどね」
「面白そうだろ」
「ふふ。そうね。シエルびっくりするわよ」

にこりと笑うアルクェイド。

「と、遠野君。何を話しているんですか?」

よほど俺の怪しい動きが気になったのか、先輩が様子を伺いに来た。

「じゃ、本番でよろしく頼む」

俺はアルクェイドにそう囁いた。

「いや、本番で緊張するなって言っておいただけだよ。うん」
「それならいいんですが……」

先輩は勘が鋭いから気づかれないように誤魔化さなくてはいけない。

なんだか自分が琥珀さんにでもなった気分だ。

横目でアルクェイドを見ると小さく親指を立てていた。

「先輩もあがるってことはないだろうけど気をつけてね」
「ええ。わかっています。アルクェイド。最後に連携を確かめておきましょう」
「おっけ〜。じゃ、志貴。また後でね」
「おう」

先輩たちを見送り、俺は俺で準備を始めるのであった。
 
 
 
 

「はい。では今日の授業を始めましょう」

そんなわけであっという間に授業の時間になった。

「遠野君。お願いします」

そして先輩が俺に目配せをする。

「きりーつ」

俺の掛け声で全員が席を立った。

「れーい」

ぺこり。

「ちゃくせーき」

そして着席。

時々「突撃ーっ!」とかネタに走りたくなるけど、それはまだやらないでおいた。

というか何故か毎回の号令は俺の役目となっていた。

琥珀さん曰く「志貴さんは委員長顔だからです」とのこと。

要するにメガネをかけているからである。

学校という場所ではメガネをかけているというだけで真面目、優秀と取られ、委員長に抜擢されるというパターンがよくあるのだ。

じゃあシエル先輩でもいいじゃないかと思うんだけど、琥珀さんはてんで聞き入れてくれないのだった。

まあ委員長イコール雑用係みたいなもんだから立場的には俺で正しいのかもしれない。

言ってて少し悲しかった。

「というわけで人にものを尋ねるときはまず……」
「ん?」

何故か先輩はごく普通の授業を展開している。

「あのー。せんぱ……先生」

秋葉がすっと手を上げた。

「なんですか? 秋葉さん」
「メガネコンビは一体どうなったんでしょうか?」
「ああ、はい。言われるのを待っていたんですよ。では早速はじめましょうか」
「あはっ、待ってましたーっ」

ぱちぱちぱちと手を叩く琥珀さん。

「なんせあのシエルさんの芸が見られるわけですからねー。これは必見ですよー。楽しみです」
「俺は無視?」

琥珀さんはまったく俺の事には触れてくれなかった。

「あはっ。志貴さんにも多分きっとおそらくもしかして期待してますよー」

文法変すぎ。

というかそれはまるで期待していないという意味なんじゃないだろうか。

まあ実際俺は途中まで特に派手な動きはしないつもりだけど。

「……琥珀。楽しみなのはわかるけどもう少し静かになさい」

琥珀さんに文句を言いながらも秋葉の顔は笑っていた。

秋葉も今日を楽しみにしててくれたんだなあ。

「ではとりあえず準備をしてきます」
「あの。何か手伝える事はありますか?」

今度は翡翠が挙手をした。

こんな時でも翡翠は人の事を考える、メイドの鑑である。

「ありがとうございます。翡翠さん。しかしちょっと力のいる仕事なので、ここはひとつ遠野君と……アルクェイドに頼みましょう」
「わたし? いいわよ」

さすがはシエル先輩。ごく自然にアルクェイドに協力させる形にもっていった。

これでこのまま二人は衣装変更が出来るわけである。

「じゃ、そういうことで。ちょっと待っててくれよな」
「はーい。行ってらっしゃいませ〜」

俺たち三人は一旦部屋の外まで移動していった。
 
 

「さて、わたしたちはこれから着替えてくるわけですが……皆さんにはヒマな時間が出来てしまいますね」
「あ。じゃあ俺が適当に間を持たせておくよ。それくらいやらせてくれ」
「そうですか? 助かります」
「大丈夫なの? 志貴」

いぶかしげな顔で俺を見るアルクェイド。

「信用ないなあ。大丈夫だって」
「ん。そっか。そういえばあの変な顔があるもんね」
「……あれはやらないとは思うけど」

まだ引っ張ってるのかそれ。

「とにかくお願いします。アルクェイド。手早く着替えてしまいましょう」
「おっけー。じゃ。志貴またね」
「おう」

さて、しばらく俺一人であの三人をなんとかしなきゃいけないわけか。

なんとかなるだろう。多分。
 

ばたんっ!

勢いよくドアを開ける。

「はーい。良い子のみんな元気かなっ? みんなのアイドル遠野志貴の登場だぜっ!」

我ながら無駄なハイテンション、動きで部屋の中央へと移動した。

「……」
「……」
「……」

うわあ。みんな引いてるし。

「え、えー、ごほん」
「兄さん。それは何か面白いのですか?」
「いや、今のはなんでもないから忘れてくれ」
「志貴さん。シエルさんはどこへ?」
「先輩はもうちょっと準備に時間がかかるから、俺が間を持たせることになった」
「えー……」

露骨に嫌そうな顔をする琥珀さんと秋葉。

「な、なんだよっ。俺だって面白い事のひとつやふたつ出来るんだぞっ」
「モノを分割するのはつまらないから無しにして下さいね。片付けるのも面倒ですし」
「う……」

いきなり俺の切り札そのいちが却下されてしまった。

「と、隣の家に囲いが出来たってねえ」
「そうなんですか?」
「……」

いかん、秋葉相手では低レベルのボケが成立してくれない。

「志貴さん、頑張ってくださいよ〜」
「わ、わかってるって」

気分はなんだかデビューしたてのお笑い芸人である。

くそう、俺はピン芸はそもそも苦手なんだよなあ。

ピンというのは一人という意味である。

どちらかというと俺はツッコミ担当なのだ。

誰かがボケてくれないと辛い。

「そ、そうだ。翡翠。なんかボケてくれ」
「わ、わたし……ですか?」
「そう。なんでもいいから」
「か、かしこまりました。ボケですね……ボケ」

翡翠は真剣に考え込んでしまった。

「いや、そんな真面目に考えられても」

しまった、人選ミスだったか。

そうだ。むしろこの翡翠が悩んでるのを利用して……

「そんなに長く考えてどうすんねーん!」

関西弁で翡翠に突っ込んでみた。

むに。

「……」

そして俺の手はもろに翡翠の胸を直撃したわけで。

「……あ、いや、これは」

翡翠の胸は控えめだけどとても柔らかくて……じゃない。

「うわー。志貴さん公然とセクハラですよ〜。さすがは魔の手を持つ男ですねー」
「兄さん、何をしているんですか……」

二人は非難轟々だった。

琥珀さんはやたら楽しそうだけど。

「ご、誤解だっ! 俺はただツッコミをしようと……」

ああ、なんだか何かをやればやるほど駄目になっていくような気がする。

「遠野君。お待たせしました。いいですよ」
「おっ……」

そこに救いともいえるシエル先輩の声。

「み、みんな。待たせたなっ。ついに主役の登場だ」
「上手く逃げましたね……まあいいですけど」
「待ってましたよ〜。ひゅーひゅー」

二人の視線がドアへと移る。

「ごめんな翡翠」
「い、いえ……」

翡翠に謝っておいて、俺はラジカセのスイッチを入れた。
 

いよいよ真・メガネトリオの登場、俺のイタズラの始まりである。
 
 
 

続く


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